「問題のない結婚はない」――社会学者・加藤諦三氏が語る、良好な夫婦関係と人間関係を続けるための本質。鍵は「問題解決能力」、すなわちコミュニケーション能力にあった。マザコン、パワハラ、格差社会まで、すべてを貫く「解釈」の重要性とは。
26歳で結婚を控えた質問者が、今後60年続くであろう夫婦関係を良好に保つコツを加藤諦三氏に尋ねた。加藤氏の答えは明快だった。
「アメリカに結婚問題研究所という機関があり、どういう結婚が良い結婚かを調査している。そこで分かったのは、問題のない結婚など存在しないということです。結婚すれば100%必ず問題は起きる」
では、何が「良い結婚」を分けるのか。それは両者に「問題解決能力」があるかどうかだという。育った環境がまったく違う二人が最も近い関係になるのだから、問題が起きないはずがない。出てきた問題を解決する力があれば良い結婚であり、なければ終わってしまう。
加藤氏は、問題解決能力の本質を「コミュニケーション能力」だと言い切る。そしてこの能力は、人がそれぞれの時代の課題を解決しながら成長してきたかどうかで決まる。
イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが19世紀に確立した理論を引きながら、加藤氏は人間の成長段階について語る。
- 幼児期の課題を解決しないまま少年少女期になる
- 少年少女期の課題を解決しないまま青年期になる
- 青年期の課題を解決しないまま社会人になる
こうして未解決の課題は、次の段階に持ち越されていく。「年を取ると赤ん坊に帰る」と言われるのも、高齢になり社会的制約から解放されたとき、幼児期に満たされなかったものが噴き出してくるからだという。
持ち越された課題の典型例が、マザコン・ファザコンの問題だ。
「男性が母親との関係を解消しないまま30歳になり結婚する。これは法律上は結婚していいというだけで、心理的に結婚できる状態ではない。結果、男性は女性と結婚したのではなく、母親と結婚していることになる」
人間の欲求は抑えることはできても、消えることはない。満たされなかった欲求は無意識に抑え込まれ、無意識から満足を要求し続ける。
加藤氏が長年携わるテレフォン人生相談には、こんな相談がよく寄せられるという。夕食が気に入らないと「こんなもの食えるか」と家を飛び出す夫。妻に「あなたのご主人は劣等感が強いから配慮を」と伝えると、「いえ、すごい自信があるんです」と返ってくる。これが「反動形成」――ないものを誇張する心理だ。本当は自信がないからこそ「俺は絶対の自信がある」と振る舞う。本人が求めているのは、母親から得られるはずだった「無条件・無制限に褒められる」体験なのである。
ではマザコン問題は解決可能なのか。加藤氏は「代理ママ」という考え方を提示する。
配偶者が一定期間、母親役を引き受ければ、抑え込まれた欲求は解消されていく。ただし、相手にとっては相当な負担となる。「自分は奥さんのつもりでいるのに、母親役を担わされる」のだから当然だ。
それでも欲求さえ解消されれば、人は次の成長段階へ進める。
同じ構造は職場でも起きる。上司にちょっと注意されただけで激しく落ち込み「こてんぱんにやられた」と感じる部下がいる。
「パワハラには、本当のパワハラと、パワハラではないのにそう感じてしまうケースの2種類がある。ナルシシズムが満たされないまま社会人になった人は、客観的には軽い注意でも『パワハラ』と感じてしまう。注意された側は嘘をついているわけではなく、本当にそう感じている。ここがパワハラ問題の最も難しいところです」
夫婦関係も上司と部下の関係も、双方に高いコミュニケーション能力が必要かと言えば、そうではない。どちらか一方にあれば関係は維持できると加藤氏は言う。
上司にコミュニケーション能力があれば「この部下はうまく話せないな」と察することができる。部下に能力があれば「この上司は危ないから、必要以上に近づかないようにしよう」と距離感を保てる。公的な関係を超えて踏み込まないこと――距離感の見極めこそが鍵だ。
夫婦関係も同じで、片方に能力があれば大きな問題には発展しない。
離婚率はアメリカの方が高いが、夫婦関係はアメリカの方が良好だと加藤氏は指摘する。
「悪くなったら別れる。別れることは一つの解決であり、ネガティブではなくむしろポジティブです。日本では『壊れていないふり』をして過ごす。だから定年退職後に妻から離婚を切り出され、夫が呆然とする、というケースが起きる」
親子関係も同様だ。子どもの反抗を「自我の確立の時期だ」と理解できれば家庭は荒れない。「自分への反抗」と解釈すれば家庭は崩壊する。
加藤氏が強調するのは、「事実そのものは人に影響を与えない。事実をどう認識するかが影響するのだ」という視点である。
その典型が「格差社会」だという。実は格差はアメリカの方がはるかに大きい。学歴社会の度合いもアメリカの方が圧倒的に強い。それでもアメリカ人は騒がない。
なぜか。平均以下の所得の人に「将来豊かになると思うか」と聞くと、アメリカ人は圧倒的に「なる」と答える。将来豊かになると思っている人と、思っていない人とでは、同じ「格差」という事実の解釈がまったく違ってくる。
アメリカで「政府が緊急に解決すべき問題は何か」と尋ねても、麻薬や徳の問題は挙がるが、格差を挙げる人は1%以下で無視できる水準だという。
結局のところ、幸せかどうかを決めるのは事実ではなく解釈である。そして良好な人間関係を築くコツは、自分が事実をどう認識するかを意識的に調整し、相手がどう解釈しているかを察知することにある。
「上司の側からすれば『あれだけ面倒を見てやったのに裏切られた』と感じても、相手はそもそも『構われた』とすら思っていないかもしれない。このギャップを自分で調整する努力をすることが、良好な人間関係を築くコツです」
トラブルが大きくなるのは、双方にコミュニケーション能力がない時。問題解決能力がある人とない人とでは、人生で経験する関係性の質はまったく違うものになる――加藤氏のメッセージは、結婚を控えた若者だけでなく、すべての人間関係に向けられている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
