若手起業家やシリアルアントレプレナーが複数事業を同時に走らせることの是非、コングロマリットディスカウントへの対処、合弁会社という選択肢まで。M&A経験者がリアルな経営判断軸を語る対談。
就活YouTubeチャンネルからスタートし、付随する事業を譲渡したのち、転職チャンネルとエージェント事業を立ち上げ、さらにM&A領域のYouTubeとFA・仲介事業まで――。1人の起業家が短期間に複数の事業を同時並行で走らせている。
本人いわく、「今の24時間のうち23.5時間ぐらいはM&Aの部分に割いている」状態。寝ても覚めてもM&Aのことを考えてしまい、自分の体がコントロールできないほどエネルギーが湧くという。
しかしスタートアップの教科書的に言えば、複数事業の同時立ち上げは「絶対にダメ」とされがちだ。リソースが分散し、どれも立ち上がらないリスクが高いからだ。この矛盾をどう捉えるべきか――富岡氏に判断軸を聞いた。
富岡氏の答えは明快だった。
「シリアルアントレプレナーはオッケー。初めての起業はやめといたら、という感じですかね」
理由はシンプルだ。一度事業を立ち上げて売却まで経験していれば、うまくいくパターン・いかないパターンが自分なりに見えてくる。その状態であれば、5個やって4個ダメでも1個当たればそこに注力して伸ばせばいい、という考え方も成立する。むしろ「ここを伸ばすんだ」という種を見つけるための時間と捉えれば、複数並走はプラスにもなり得る。
一方、初めての起業家は1個の事業を回すだけでも大変だ。同時に複数を走らせれば、リソースとマインドシェアが分散して、結果的に全部うまくいかない、という展開になりやすい。
「まずは小さくていいから1個やってみて、ある程度結果を出して、2周目で2個目とか同時にいくつかやるとかはやりやすいんじゃないかな」
ここで聞き手は「自分は天才でも何でもなく、たまたま売却になっただけで“起業を一周した感”がない」と打ち明ける。最初は就活チャンネルに全振りしていたが、合理的な問題と感情的な問題が重なり、好奇心ベースでM&A領域に踏み込んでいったという経緯だ。
メディア事業は広げる・取材するといった筋肉を使う一方、エージェント事業や仲介事業は組織を作り、両者を抑え、事業解像度を高める筋肉が必要になる。「使う筋肉が全然違う」と本人も難易度の高さを実感している。
これに対して富岡氏は、評価の主体を切り替えるべきだと指摘する。
「僕が見ているのは本人の自己評価ではなく、相手が評価していることを評価しているんです。つまり、自分ではうまくいっていないと思っていても、しっかり“良い”と思ってもらって買ってもらっているなら、それはもう立派に一周終わったと見ていい」
売却が成立したという事実こそが、市場による“一周完了”の証明だという見立てだ。
話題は同一法人で複数事業を持つことの企業価値への影響に移る。複数事業を抱えると企業価値がディスカウントされる、いわゆるコングロマリットディスカウント(複合企業が単一事業企業の合計より低く評価される現象)が気になる、という問いだ。
富岡氏の整理はこうだ。
「コングロマリットディスカウントは上場した後に出てくる話。それを抜きに考えると、同一法人で複数事業をやるのは別に問題ないんです」
スタート地点としてはまったく問題ない。そのうえで「次に何をしたいか」によって、別法人に分けるべきか否かの議論が初めて出てくる、という順番だ。
別法人化が合理的になる典型例として挙がったのが、日本交通とDeNAによる合弁会社「GO」(タクシー配車アプリ)だ。
富岡氏は背景をこう読み解く。
「日本交通のアセットと自力だけでは、ITサービスやアプリケーションは作りきれない。だからDeNAから出資を受けて、自分たちのタクシーアセットとITの力を掛け合わせている。クライアントワークとして発注するだけでなく、一緒にがっつりリスクを取ってもらうために、合弁を別会社で作っているのだろう」
つまり、「外注として付き合うのか」「合弁としてリスクを共有するのか」は、達成したい目的によって決まる。資金が足りないから切り出して外部出資を得る、という側面もこれに重なる。
結論として、同一法人で複数事業をやるか・別法人に分けるか・合弁にするかは、すべて「何をやりたいか」という目的から逆算して決めるべき論点だ。
初めての起業であればまず1事業に集中する。シリアルアントレプレナーであれば複数並走も合理的になり得る。事業を伸ばす過程で外部リソースとの掛け算が必要になれば、合弁という選択肢が浮上する。上場が視野に入って初めて、コングロマリットディスカウントを意識した事業ポートフォリオの整理を考える――。
「目的に応じて会社の作り方や資本構成を意図的に変えていく」発想は、これからの起業家にとって標準装備になっていきそうだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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