役員報酬はどう決めるべきか。資産管理会社は本当に必要か。銀行はどこを見ているのか。会計のプロ・森尾氏が、純資産を軸にした経営判断の本質を語る。中小企業経営者必読の財務戦略インタビュー。
オーナー企業の経営者にとって、役員報酬の決め方は悩ましいテーマだ。業績連動で下げるべきか、それとも覚悟を示すために据え置くべきか。さらに、資産管理会社の活用、銀行とのコミュニケーション、キャッシュリッチ経営の本質まで、経営判断の根幹に関わる論点は多い。
本記事では、月20社の経営者個別相談を受け続ける会計のプロ・森尾氏に、M&A CAMPがインタビュー。役員報酬から資産管理会社、事業計画書、キャッシュリッチ企業の作り方まで、銀行員の視点を交えながら徹底的に解説してもらった。
まず話題に上ったのが、役員報酬の決め方だ。聞き手側の経営者は、現在年1000万円の役員報酬を受け取っているが、業績が爆伸びしているわけではないため、800万円に下げようかと検討中だという。
この問いに対して森尾氏は「純資産次第」と即答した。
「純資産が厚い会社、たとえば5000万、エクイティが入って1億を超えるような会社さんは、役員報酬をしっかり取っても問題ありません。仮に経常利益が500万円の赤字でも、銀行員の方が『役員報酬2000万取っているなら、これを半分にすれば500万の赤字が500万の黒字になるだけですよね』と、味方をして補正してくれます」
つまり、銀行は赤字そのものよりも「赤字を埋め戻せる体力(純資産)」を見ている。同じ赤字額でも、純資産が1億ある会社と1000万しかない会社では、評価がまったく違うのだ。
「純資産が1000万しかない会社が500万の赤字を出して2000万の役員報酬を取っていたら、『何を考えているんですか』と善管注意義務を問われるレベルです」
役員報酬を取るべきか抑えるべきかの判断軸はシンプルで、まずは純資産の目標額(5000万、1億など)を設定し、そこに到達するまでは内部留保を厚くする。到達後は個人側に資産を作っていけばよい、というのが森尾氏の整理だ。
興味深いのは、銀行が役員報酬の増減を「社長の意思の表れ」として読んでいる、という指摘だ。
「役員報酬を見れば、だいたい業績が分かります。決算書も大事ですが、役員報酬が前年より下がっていれば、ああ今期はやばいんだなと一発で分かる。社長が何かネガティブな要因を抱えているサインです」
そういう会社が「来期は売上を伸ばします」という事業計画を持ってきても、「だって社長が給料減らしているじゃん」と説得力を失ってしまう。
だからこそ森尾氏は、純資産が厚くないフェーズで安易に役員報酬を下げるくらいなら、据え置いて覚悟を見せる方が良いと語る。
「1000万から800万に下げて、200万も稼げず不安になったのかと思われるくらいなら、もう決め打ちでとにかく稼ぐと。結果がうまくいかなくても、200万を後悔するような純資産規模じゃなければ、自分に負荷をかけた方がいい」
下げて得られる「安心感」が経営者の覚悟を緩めてしまう、というのも見過ごせない指摘だ。
話題は役員貸付金にも及んだ。会社から役員が一時的にお金を借りる役員貸付金は、銀行から見て印象が悪いと一般的に言われる。これも本当に悪いのか。
答えはやはり「純資産次第」だ。
「資本金500万・利益500万で純資産1000万の会社が、役員に500万を貸し付けていると、貸借対照表の右側のデット比率が高くなり、その貸したお金の中に銀行から借りた金が入っていることになる。これを銀行は嫌います」
一方で、純資産が1億の会社が社長に500万貸していても、誰からも追求されないという。「同じ500万の貸付でも、純資産が積み上がってくると何も言われなくなる。自分の金だと主張できるのが純資産金額だからです」
また、親子間の事業承継で増与税の納税資金として会社から借りるようなケースは、純資産が厚ければ問題なく処理できる。役員貸付金の良し悪しを単独で判断するのではなく、純資産との比率で見るべき、という視点だ。
ただし、役員報酬を下げながら役員貸付金が増えていくパターンは「裏があるんじゃないか」と疑われるため要注意だという。
続いて話題は、資産管理会社の活用に移った。森尾氏は「個人で直接、資産を持たない方がいい」と明言する。
「A社・B社・C社の株を自分で直接持っていると、各社が頑張った分の値上がりが全部個人に反映され、引き継ぎ時の税金負担が大きくなります。間に法人を1社かませて間接所有にすると、子会社の値上がりを抑えてくれる効果があるので、皆さん資産管理会社を作るんです」
さらに、資産管理会社は資産運用面でも有利だという。
個人で1億円の手取りを得てS&P500などに投資する場合、家賃収入や運用益が膨らむと所得税率が上がっていく。一方、法人で持てば実効税率は約30%(手残り7割)にとどまり、しかもその法人株を「ちょっとずつ子供に譲る」など長期の資産承継計画が組みやすい。
ただし注意点もある。資産管理会社が銀行から運転資金を借りていると、その資金で株式投資などを行うのは「資金使途違反」になりかねない。資産管理会社で投資を行う前提なら、銀行借入の使途と整合させる設計が必要だ。
また、規模が小さいうちは慎重に。「利益が2〜300万の方が焦って資産管理会社を作っても効果がない人が結構います。膨らましたい資産が1億円を超えてくるあたりから、デットを使ってレバレッジを効かせる、特に不動産投資のような場面で効果が出てくる」と森尾氏は語る。
中小企業経営者にとってもう一つの定番テーマが、事業計画書・財務計画書をどこまで作り込むべきか、だ。
これに対して森尾氏は意外な答えを示す。
「銀行さんで言うと、事業計画書は求められないですよ。求められるときは、たいてい過去の数字が悪いとき。そして、出してもほとんど融資は厳しい」
銀行は基本的に「過去の延長線上に未来がある」と考える。過去が良ければ将来も良いと判断し、計画書は求めない。逆に、過去が悪いから未来を見せてくれと言われた時点で、融資の可能性は極めて低くなっているのだという。
ではメガバンクの部長クラスは、何を見て経営者を評価しているのか。森尾氏が教わったのは、「経営者が決算書を読めているか」だった。そして、決算書を読めるとはどういうことか。
「半年先の預金残高を、社長が即答できるかどうかです」
3年・5年先の立派な中期計画を語るより、半年先の預金残高をざっくりでいいから読めているか。売上、利益、毎月の返済、投資の4つを抑えれば資金繰りはざっくり組める。そのレベルで自分の足元を把握できている社長は、銀行員から見て信頼に値する、というのだ。
「5年後の未来を立派に語る社長に『じゃあ半年後の預金いくらですか』と聞いてポカンとされると、その5年後の未来は来ないよね、と思われてしまいます」
聞き手側の会社は、第三者割当増資で一時的に純資産が厚くなる一方、成長投資で利益剰余金が一時的に削れる見通しだという。これを銀行にどう伝えるか。
森尾氏のアドバイスは「3年後の純資産をいくらにしたいかを即答できるか」「バランスシート計画を作っているか」だった。
「売上をこうします、利益をこうしますという計画は皆さん作りますが、経営の目的は現預金と純資産です。PLが3年あって、それぞれの貸借対照表の純資産がこうなる、利益剰余金が一時的にマイナスでも資本金があるから債務超過にはならない、と貸借対照表を軸に語れると、銀行員は納得します」
本当にすごいと言われる経営者は、皆「純資産」で会社を語るという。逆に、PL(売上・利益)だけで経営している社長は、債務超過寸前まで気づけないリスクをはらんでいる。
最後に、キャッシュリッチ企業を目指す経営の本質について。聞き手側は「現預金は厚いが、その大半が銀行借入だ」という状態への危機感を口にした。
しかし森尾氏は、その中身は気にしすぎなくていいと言う。
「中身を問い始めるとお金は持てません。お金を持てないと利益も稼げません」
たとえば、毎年1000万円の利益を5年積み上げて5000万円の現金にするのと、今すぐ銀行から5000万を借りて1000万円の利益で返していくのとでは、5年後の現金は同じ5000万円でも「今ある5000万」と「5年待った末の5000万」では価値がまったく違う。
「自分のお金で蓄えていきたいと考える人は、結果的に時間を浪費してしまう。今のこの時代において、挑戦しない方・調達しない方がむしろリスクかもしれません」
また森尾氏は、銀行員が「自己資本比率が高い会社」を必ずしも好むわけではないという興味深い話も明かした。
「自己資本比率は何%が理想ですかと、儲かっていない社長に聞かれたら『30%』と答えるらしいんです。でも、しっかり実績を出している社長には『自己資本比率が低いということはデットを使えていないということで、そんな経営者は応援しない』と。銀行員も相手によって使い分けているんです」
つまり、自己資本比率の数字そのものではなく、「投資をしてどんどんお金を使う経営者かどうか」が銀行から見た本質的な評価軸ということだ。
インタビューを通じて繰り返されたのは、「純資産」「現預金」「半年先の数字」「バランスシートで語る」というキーワードだった。
森尾氏は最後に、決算書をこう表現した。
「子供の通信簿は親として鵜呑みにしません。でも社長の成績表だけは、社長が自ら作れるんです。そして銀行もそれを信用してくれる。だからこそ、ひどい状態のまま、もっと評価してくださいと持って行っても通用しない。100人税理士がいれば100通りの決算書ができると言われますが、自分でリテラシーを持って対応しないと、もっと良い表現方法があったのに気づけないこともあるんです」
税理士との関係性、銀行員との誠実なコミュニケーション、そして経営者自身が数字を語れること。これらが揃って初めて、決算書は経営者の「成績表」として機能する。
中小企業経営者が、役員報酬・資産管理会社・銀行交渉・キャッシュ経営という複合的な論点を、純資産という一本の軸で整理して捉え直す。そんな視座を与えてくれるインタビューだった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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