上場企業のものと思われがちなホールディングス体制。実は中小企業やベンチャーこそ活用すべき理由があります。M&Aの選択肢拡大、株価上昇の抑制、資金調達力の強化など、税理士・森尾勇気氏が具体的な仕組みと数字で解説します。
ホールディングス(持株会社)体制と聞くと、上場企業や大企業が取り組むものというイメージを持つ経営者は多い。しかし近年、中小企業やベンチャー企業にとってもホールディングス化は身近な選択肢になりつつある。
税理士法人小林会計(西葛西)に所属し、YouTube「中小企業の財務チャンネル」(登録者数約6万人)を運営する森尾勇気氏は、月に約20件の個別相談のうち3割がホールディングスに関する案件だと語る。
かつてはホールディングス化の支援費用が大手専門家で500万円以上と高額だったため、中小企業には手が届きにくかった。しかし近年、組織再編に強い若手税理士法人が増え、100〜200万円程度で対応可能になり、活用の幅が広がってきている。
中小企業のM&Aでは「年倍法」と呼ばれる方式で売却価格が決まることが多い。純資産に営業利益の3〜5年分を加えた金額が目安となるため、純資産が厚い会社ほど売却価格が高くなり、買い手の負担も大きくなる。
ここでホールディングス体制が活きる。事業会社からホールディングスへ配当でキャッシュを吸い上げておけば、受け手のホールディングス側では課税されない仕組みを利用できる。たとえば1億円の売却価格の会社から事前に5,000万円をホールディングスへ配当しておけば、5,000万円で売却できるようになる。
さらに税金面でも差が生じる。
- 個人で直接株を売却する場合:キャピタルゲインに約20%課税
- ホールディングス経由で売却する場合:法人税率約30〜37%
単純比較では法人課税のほうが高く見えるが、事前に配当でキャッシュを吸い上げておけば、課税対象となる売却益自体を圧縮できる。1億円の売却益を直接売却すれば税金2,000万円。これを「5,000万円配当(無税)+5,000万円売却(税1,500万円)」に分ければ、納税額は1,500万円で済む。
M&Aで他社を買収していく場合も、ホールディングスは有効に機能する。事業会社が直接買収を重ねると借入金が膨らみ、本業の資金調達余力を圧迫してしまう。
そこで、ホールディングスを介在させて配当でキャッシュを吸い上げ、ホールディングス側で借入を行って投資する形にすれば、事業会社の決算書を傷めずに済む。さらに、子会社で不祥事が起きた場合も親会社(事業会社)に責任が波及しないリスクヘッジ効果もある。
ホールディングス化のもう一つの大きな効果は、株価上昇の抑制である。森尾氏が示した具体例はこうだ。
社長が直接A社株(純資産1億円)を保有し、年間1,000万円の利益を20年積み上げると純資産は3億円となり、株価も3億円に膨れ上がる。子供や社員に承継する際、この金額が重い負担となる。
ところが事前にホールディングスを設立し、その下にA社をぶら下げておくと話が変わる。子会社株価が3億円になっても、ホールディングスが子会社株を売却した場合の法人税(約37%)相当分が控除される。結果、社長が保有するホールディングス株の評価額は約2億2,600万円となり、約7,400万円も評価が下がる。
これは上場企業オーナーが資産管理会社を活用するのと同じ仕組みだ。「資産は直接持つな、必ず間接所有」というのが税務の世界の鉄則である。ただし注意点として、この効果は「株価が上がる前」に設立することで発揮される。すでに3億円になってから作っても効果はない。
森尾氏はホールディングス化のデメリットとして次の2点を挙げる。
1. 設立時のイニシャルコスト(専門家報酬で100〜200万円程度)
2. 毎年のランニングコスト(税理士報酬20〜30万円+県民税・市民税7〜18万円)
目安として、法人税納付後の利益が1,000万円以上出ている会社であれば、早めに設立を検討する価値がある。仮に役割を見出せなければ合併で元に戻すこともできる。
ホールディングス化の手法として代表的なのが「株式移転」と「株式交換」だ。
- 株式移転:既存会社の上に新しい持株会社を作り、既存会社の株を持株会社に移し、社長は持株会社株を受け取る
- 株式交換:既存の2社のうち一方を、もう一方の傘下に入れる手続き
どちらも社長の支配関係や事業会社の借入関係は変わらないため、銀行への承諾も不要だ。すでに資産管理会社を持っているケースでは、それをホールディングスに転用する方法もある。
対談では司会者自身の会社の資金調達戦略についても具体的な議論が行われた。森尾氏のアドバイスは明快だ。
「借入もエクイティも、調達するには貸借対照表の左側(資産・使い道)が必要。資金使途のないままエクイティを入れると、銀行融資の余地が削られ、調達コストの高い資金が残るだけになる」
IT系企業の場合、貸借対照表に資産が乏しく、銀行から見て収益が読みにくい。そのため成功者の多くは不動産投資に向かう傾向があるという。
- 不動産は流通市場が成立し、収益の先読みがしやすい
- 借入の規模が大きく返済期間も長いため、銀行にとって優良案件
- 担保価値が事業の運転資金調達余力を高める
- 経営者保証も近年外しやすくなっている
不動産投資はホールディングスで行うのがセオリーだ。事業会社の決算書を痛めず、グループ全体としては銀行が評価する。
借入の理由が乏しい会社が調達枠を広げるには、取引銀行を増やすのも有効だ。1行あたり2〜3,000万円でも、3〜4行集めれば1億円規模になる。
総量が増えれば銀行から得られる利息も増え、銀行側の取り組み姿勢も変わる。さらに、他行から借りた残高をメインバンクに肩代わりしてもらうことで、メインとの関係性を一気に強化できる。
中小企業で見える化されていない代表的な数字が自社株価である。上場企業の社長は日々株価を意識するが、中小企業のオーナーは引き継ぎや健康問題が発生して初めて気づくケースが多い。
「今の1株あたり評価額」と「3年後・5年後・10年後の予測値」を把握したうえで、ホールディングス化を検討することが重要だ。M&A、家族承継、社内承継、いずれの選択肢を残すうえでも、株価上昇を早期に抑える設計は経営者の責務といえる。
森尾氏は最後にこう語る。「ホールディングス化にしても不動産にしても、ビクビクしていては成功しない。ある程度勉強したうえで、信頼できる仲間と組んで動くことが大事」。
月20人の社長と面談し、年間で延べ300人以上の経営者を見てきた森尾氏の実感では、表に出ないだけで成功者のほうが圧倒的に多い。失敗する経営者の共通点は「勉強不足」と「人を信用しすぎ」だという。
株価が低いうちにホールディングスを設計し、銀行との関係を分散・厚くし、本業に近い資産(特に不動産)を持つ。これらは単独ではなく、組み合わせて初めて中長期の経営選択肢を最大化する。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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