社会心理学者・加藤諦三氏が、東大大学院時代に「人間ではない」と烙印を押された挫折体験と、ハーバード大学で評価が一変した経験を告白。劣等感を乗り越え視野を広げるための価値観の捉え方を語る。
社会心理学者として長年活躍してきた加藤諦三氏。今回のインタビューでは、自身が若き日に経験した強烈な挫折と、そこから視野を広げて幸せを認識するに至った経緯が語られた。
加藤氏が「自分はこの環境にいてはいけない」と気づいたのは、高校時代ではなく大学院に進んでからだという。
「大学院で修士課程に行った時に、指導教授から『君のやっている仕事を私は高く評価するけれども、東大では高く評価されないよ』と言われたんです」
その理由は、当時の東大に蔓延していた特異な価値観にあった。
「東大では『人間は勉強すれば必ずマルクス主義者になる』という考えを持っていた。だからマルクス信者でない人間は人ではないんですよ。加藤は勉強しないからマルクス信者じゃない、と」
指導教授は幅広い視野を持つ人物で、博士課程への進学を勧めてくれた。しかし加藤氏は「これは絶対に『人間ではない』と判子を押されないと抜けられない」と決意したという。当時は北朝鮮を「地上の天国」と称する空気すらあった時代。マルクス信者でなければ「不勉強」と切り捨てられる環境から、加藤氏は本を書く仕事へと進路を切り替えた。
転機となったのは、ハーバード大学への留学だった。研究所を訪れた加藤氏は、自身の著書『人間であることの原点』が置かれているのを目にして驚いた。
「『なんでこの研究所にこの本があるの?』と聞いたら、『お前はこの本のおかげで激しい競争を通ってハーバード大学の研究員になれたんだよ』と言われたんです」
東大では「これを書く奴は人間ではない」と切り捨てられた著作が、ハーバードでは「創造性豊かな学者である」という評価につながっていた。さらに「お前は東大から来るどのような教授よりも最も優れた学者だ」とまで言われたという。
ハーバード大学への合格も、わざわざ試験官が来日して直接審査を行うという特別な過程を経たものだった。
「ハーバードでなければダメだったろうね。どこへ行ったって『お前は人間じゃないんだから、犬が何か言ってるよ』で済まされていた」と加藤氏は振り返る。場所と環境が変われば評価軸も変わる。それは東大という一つの価値観に過ぎなかったのだ。
この体験から導き出される教訓は、現代を生きる私たちにも深く響く。加藤氏は劣等感の本質をこう定義する。
「劣等感というのは、多くの価値の中の一つの価値を唯一の価値と思い込むこと」
つまり、自分のいる世界の評価軸が、世の中に存在する数多くの価値観のうちの一つに過ぎないと認識できれば、劣等感は和らぐ。
「マラソンだけが人生ではない。マラソンが早いことも多くの中の一つの価値だけれど、唯一の価値ではない。マラソンができないからといって、人間になっていないと言われるわけではない」
しかし、長く一つの環境に身を置いていると、その価値観を壊すことは難しくなる。だからこそ、定期的に価値観を壊す習慣や、意識的に異なる価値観に触れる努力が必要だという。今までの価値観を壊さなければ、新しい視点は入ってこない。
世の中的な成功を得たとしても、それと幸せは別物である。加藤氏は「幸せになるために生きている」という原点に立ち返ることの重要性を強調する。
そしてもう一つ、人生に欠かせない力としてコミュニケーション能力を挙げた。
「コミュニケーションができればシェアは広がる。パソコンができなくても語学ができなくても生きていかれる。だけどコミュニケーション能力がなくなったら生きていかれない」
視野を広げ、価値観の多様性を受け入れ、コミュニケーション能力を磨く。加藤諦三氏の体験談は、挫折の渦中にいる人にも、成功に行き詰まりを感じている人にも、人生を捉え直す大きなヒントを与えてくれる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
