高学歴・高年収のサラリーマンほどキャリアに悩むのはなぜか。元クラウドワークス取締役副社長の成田修造氏を迎え、大企業からの脱出口となるスモールビジネス、学生起業の重要性、そしてエリートこそ取るべきリスクについて語り合った対談記事。
キャリアには、20代の若いうちと35歳以上とでゲームのルールが変わる瞬間がある——成田修造氏はそう語る。
若い頃は東大や三菱商事といった「経歴」で評価される側面が強い。しかし30代中盤を過ぎると、起業や上場など目に見える「実績」を出してくる人が現れ、評価軸そのものが経歴ドリブンから実績ドリブンへと変わっていく。
そうなったとき、経歴で優位だった人ほど悩みを抱え始める。どれだけ年収が高くても、会社員でいる以上、爆発的に資産が貯まることはない。一方で、起業やM&Aを経験した人々は人生の自由度や選択肢の幅で差を広げていく。「自分は今後ダウンラウンドかもしれない」——そんな焦りを抱えるエリートが増えているという。
成田氏が紹介したのは、大企業で34年働き、30代後半で独立してベンチャーに移った人物のエピソードだ。
「全盛期はいつでしたか」と尋ねると、その人はこう答えた。
「自分は小学生です。一番クリエイティビティを発揮できて、好きなこと・楽しいことに没頭できていた時期だった。受験を経て、だんだん普通になっていって、大企業に入ってからはそのゾーンから抜け出せない感覚がある」
消化試合のような感覚で30代後半を迎え、ここから定年まで25年働き続けなければならない——そう思うと厳しい、と。チャレンジできた人はまだ良いが、子どもや家族の事情でチャレンジに踏み切れない人も多い。
話題はいわゆる「嫁ブロック」にも及ぶ。本当に嫁ブロックは存在するのか。
成田氏によれば、明確に「やめろ」と言われるケースよりも、相談したときに相手がひどく不安そうな顔をする、応援してもらえない——そうした空気の重さに耐えきれず断念するケースが多いという。スタートアップがオフィスに投資する理由のひとつは、キラキラしたオフィスを見せることで配偶者の不安をやわらげるためだ、という話も紹介された。
同窓会で独立した友人と会うと「お前はすごいな」と妙な壁を作られる——そうした閉塞感もまた、エリートを縛りつけている。
この閉塞感を破る鍵として成田氏が挙げるのが、スモールビジネスだ。
大企業で副業が解禁されたといっても、ゼロから自分の手で稼ぐのは難しい。かといって、会社員からいきなりスタートアップ起業へ飛ぶのは振れ幅が大きすぎる。その中間に位置する「スモールビジネス」こそ、エリートが踏み出しやすい一手だという。
数千万円規模のスモールエグジットなら、難易度はそこまで高くない。コーラルキャピタルがかつて発信したように、こうしたスモールエグジットを賞賛する文化が広がれば、サラリーマンの選択肢はもっと豊かになる。副業よりも一歩踏み込んだ「事業っぽいもの」を持つこと——それが現実的な突破口になる。
聞き手のホリ氏は、自身の経験を踏まえてこう語る。
「三菱商事を辞められた最大の理由は、学生時代に起業をしていたから」
サラリーマンになると時間がない。新卒1〜2年目はフレッシュさで目の前の仕事に集中してしまい、副業に向きにくい。そもそもリスクを取った成功体験がない人に、突然「起業しろ」と言っても踏み出せない。だからこそ、学生時代にどれだけスモールビジネスや資金調達に触れ、リスクテイクの肌感覚を養えるかが分岐点になるという。
ラクスル松本氏など、同世代で活躍する起業家の多くも学生起業の経験を持つ。「学生起業は絶対にやった方がいい」——成田氏も自著で同じ提言をしている。
一方で、大企業出身者の悩みは「自分が誇れる業務経験がない」点に集約されるという。
クラウドワークスで大企業の副業支援に取り組んでいた頃、成田氏は多くの人にこう問いかけた。「あなたは何ができますか?」答えに詰まる人が多かった。プロジェクトの一員として関わった経験はあっても、「これは自分がやった」と言える成果が乏しい。それが自信のなさにつながっている。
解決策はシンプルだ。一度、何かを最初から最後まで一人でやってみる。メディアでも、YouTubeチャンネルでも、SNSでも構わない。サラリーマン的な腰の強さは資料作成や会議調整にあるかもしれないが、商売人の足腰は「集客」にある。集客を徹底的に学ぶこと——それだけでも世界の見え方は大きく変わる。
もちろん、大企業の経験には独自の価値がある。聞き手の一人は、自社のM&Aで売却がうまくいかなかった理由として「社内政治や調整力がゼロすぎてハレーションを起こしまくった」ことを挙げ、大企業経験者の知恵を借りる重要性を語った。
成田氏はこれを「料理」と表現する。大企業で身につく調整力やオペレーション能力は確かに料理の腕として価値があるが、それを生かす素材——つまり若いうちのチャレンジ経験——がなければ料理は成立しない。
だから順序が大事だ。若いうちに学生起業やベンチャーインターンでリスクテイクを経験し、その後に大企業へ入る。ただし「鋳型に入りきらないように」自我を確立し、いつでもチャレンジに戻れる構えを持ち続けること。そうしないと1年1年がズルズル過ぎていく。
もう一つの根深い問題として挙がったのが「親の影響」だ。
キャリアの意思決定タイミングが、親離れの完了する前にやってくる。すると、20〜30年前の日本の市場に最適化された価値観——「大企業に入れば右肩上がり」という古い期待値——がそのまま子どものキャリア選択に持ち込まれてしまう。
成田氏は子育て経験から、「14歳くらいで親子関係はインフラ機能だけに絞るべき」と提言する。それ以降は余計な価値観を伝えず、子どもの主体性に委ねる。受験教育の現場でも、過干渉は主体性を奪い、心理的安全性を損ねて積極的な思考をできなくする——「無関心くらいがちょうどいい」という結論に近づいているという。
話題は再び、エリートサラリーマンの構造的問題に戻る。
三菱商事のように高給な企業では、ハングリーさが消えやすい。周囲からもちやほやされ、忙しさにも追われる。構造的にイノベーションが生まれにくいのは当然だ。
さらに驚くべきは、年収2,000〜3,000万円でも貯金が貯まらないという現実だ。東京の生活費、教育費、上がり続ける生活水準、車、海外旅行——子ども2人と大人2人でヨーロッパに行けば、エコノミーでも航空券だけで150万円、ビジネスなら500万円。手取りベースで見れば、2,000万円の年収でも自由は意外と少ない。
「永遠に定年までいないといけないように設計されている」——成田氏はそう表現する。給与所得をベースに住宅ローンを借りて不動産を転売する、というのが資産形成の典型パターンになっているのが現状だ。商社マンといえば「ゼロから商売を作る」イメージで就活生に語られるが、現業の大半は投資先管理である。
結論として成田氏が語ったのは、シンプルなメッセージだ。
「資産運用と同じで、人生でも適切なリスクを取ることが大事。能力が高い人ほど、本当のリスクを取ってほしい」
サラリーマンを続けることは安定だが、それは「普通預金」にすぎない。利率がない。能力があるなら、スタートアップで働く、独立する、副業から事業に育てる——どこかで「機嫌(決断のタイミング)」を決める必要がある。
失敗してもセーフティネットはある。事業がうまくいかずに買収されても、上場企業の取締役としてキャリアを継続できた女性起業家の例もある。むしろ「失敗した人こそ箔がつく」——成田氏自身、最初の起業で失敗してクラウドワークスに合流した経験から、そう断言する。
キャリア迷子のエリートに必要なのは、悩み続けることでも思考停止することでもなく、「悩むなら挑戦する」という覚悟だ。そして社会全体としても、ゼロから何かを作る人を称える価値観を醸成していく必要がある。
エリートのキャリア迷子問題の根は深い。経歴ドリブンから実績ドリブンへのルール変更、大企業の構造的な閉塞感、職能不足、親の価値観、そして高年収ゆえに身動きが取れなくなる罠——。
しかし対処の道筋は見えている。若いうちに学生起業やベンチャー経験でリスクテイクの肌感覚を養うこと、サラリーマンであっても集客や事業開発の足腰を鍛えること、そしてスモールビジネスという「現実的な突破口」を選択肢に持つこと。能力の高い人ほど、適切なリスクを取ることで人生の「利率」を最大化できる。
社会全体がトライした人を称える方向へ動き始めれば、エリートのキャリアの行き詰まりはほどけていくはずだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


2025/9/20

2026/4/25

2026/3/14

2026/2/14

2026/2/9

2026/2/4