大阪駅前の小さなオフィスから1人で創業し、12年で売上320億円規模へと成長させた大和財託・藤原正明氏。IPOを目指しながらも上場を辞めた決断の理由、不動産業界で組織を大きくする秘訣、そして売上1兆円を目指す原動力に迫る。
大和財託株式会社は、2013年7月に藤原正明氏が大阪駅前第1ビルの10坪オフィスから、たった1人でスタートさせた会社だ。創業から12年が経過した現在、グループ社員数は約310名、前期決算は売上220億円・経常利益18億円。今期(2025年8月期)は売上320〜340億円、経常利益28億円の着地見込みで進んでいる。
事業内容は、不動産・建築領域を活用した「資産価値創造業」。不動産投資家や土地活用を考えるオーナー、不動産デベロッパー向けに、一棟もののアパート・マンション・ビル・ホテルなどの開発・建築サービスを提供している。
岩手大学工学部出身の藤原氏は、新卒でバルブメーカーに入社し、営業職としてキャリアをスタート。理系の「陰キャ」だったと振り返るが、空手・極真で全国2位を経験するなど、決めたことをやり切る力は若い頃から備わっていた。
結婚と子供の誕生を機に将来のキャリアを見つめ直し、実家の父親が始めた一棟アパート投資が儲かっている様子から不動産業界に興味を持つ。さらに、メーカー営業時代に建築現場で見た大林組などのスーパーゼネコンの仕事の大きさに惹かれ、最終的に「建設会社に発注しているのは不動産デベロッパー」という構図に行き着いた。
2009年1月、三井不動産レジデンシャルに転職。しかし入社わずか3ヶ月で「自分のスペックでは出世できない」と悟る。
> 中小企業でもダメ、大企業でもダメだったら、もう自分で起業するしかない
こうして消去法的に起業の道が決まった。
すぐには独立せず、まずは三井不動産レジデンシャルで年収を上げ、自ら不動産投資を実行した。オリックス銀行から数千万円の融資を受けて1棟目を購入するまでに約1年。その過程で痛感したのが、不動産業界の「顧客軽視」体質だった。
- 情報を出してくれない
- 営業対応がひどい
- 業者自体が不動産投資をよく分かっていない
- 売り情報を渡すだけで、コンサルティング機能がない
この体験が、現在のビジネスの源流になっている。「忙しいサラリーマンが手間なく一棟もの不動産投資をできるよう、すべてサポートする会社があったらいい」──藤原氏はこの領域で起業することを決めた。
ただし、三井不動産レジデンシャルのビジネスモデルは10億〜100億円規模の大型ファイナンス案件であり、自分が目指す事業とは異なる。そこで、関東にある類似ビジネスを行う会社に「2年間だけ修行させてくれ」と頼み込み、ノウハウを学んだ後に大阪で創業した。
創業時の軍資金は約4000万円。内訳は自己資金2000万円、日本政策金融公庫1000万円、保証協会制度融資1000万円。「これが尽きたらやめよう」と覚悟を決めてのスタートだった。
運も味方した。2013年は第二次安倍政権発足直後で、黒田日銀総裁による「クロダバズーカ」の金融緩和が始まったタイミング。社員1名の無名会社の顧客にも金融機関が融資を出してくれる、稀有な時期だった。
創業1年目から毎月1〜2棟を売却。売却後の管理業務(家賃収入の3〜5%)がストック収益となり、社員を少しずつ増やしていった。創業前から続けていたアメブロでの情報発信も大きな集客ツールとなり、近年はXやYouTubeへとチャネルを移している。
不動産業界には会社規模を大きくできない会社が圧倒的に多い。理由は明快だ。
- 仲介業は個人事業主的に独立しやすい
- 多くの会社が「サラリーマンを名乗る個人事業主の集まり」になっている
- コミッションも歩合も高く、エースが辞めれば売上が消える
大和財託はこの真逆を貫いた。
1. 業界を渡り歩くタイプではなく、会社員として勤めたい人を採用する
2. 三井不動産やユニクロを参考にしたミッショングレード制の給与体系
3. 1人では仕事が成り立たない仕組み化(マーケティング・案件創出は会社が担う)
4. 創業初期から部署を分け、役割を分担
5. 「One for All, All for One」のチームワーク文化
営業マンが20代でも1000〜1500万円をコンスタントに稼げる一方、「1億稼げる」体系にはしていない。バックオフィスも含めた全体の平均年収を1000万〜1500万円に引き上げる方針だ。
2017年からIPOを目指し、2018年にN-2期入り。SBI証券と新日本監査法人をパートナーに、2020年のN期まで進めた。「何もしなければ上場できた」という段階での撤退だった。
決断の理由は極めて合理的だ。証券会社から提示された予想バリュエーションはPER10〜15倍。当時の税後利益約3億円から逆算すると時価総額30〜45億円。売出と公募を合わせても、創業者である藤原氏の手元に入るキャッシュは数億円規模に留まる。
> 3億手に入れたとして、成長資金として何もできないやんと思った
さらに、上場後の経営の自由度低下、社内規定の煩雑化、外部株主への配慮など、メリットを上回るデメリットを直視した。「自由に経営した方が会社として伸びる」と判断し撤退。発行していたストックオプションを目当てにしていた一部社員は離職したが、長期的にはプラスだったと振り返る。
藤原氏が掲げる目標は、60歳までに売上1兆円・経常利益1000億円企業を作ることだ。個人資産はすでに十分にあり、エグジットすれば100億円規模の現金化も可能な状況だが、そこに興味はない。
> 生きた証を社会に残す。1つの作品作りみたいな感覚
40年後に自分が死んでも、会社は残る。そこには顧客・取引先・社員といった多くの関係者の人生が詰まっている。「お客さんが儲かる不動産しか紹介しない不動産会社・建設会社が社会に残ったら、社会全体にとっていいこと」──これが原動力だ。
SNSのイメージに反し、藤原氏の日常は極めて規律的だ。
- 朝5時半起床、夜10時前後就寝(睡眠時間6時間以上は絶対確保)
- 週3〜4回の筋トレ(胸・肩・背中で部位分割)
- 会食は週1回程度、深夜まで飲み歩かない
- 飲み会は12時までに終電で帰社する社内ルール
- 会食予算は役員以下に権限委譲
極真空手の競技時代から続く筋トレは、もはや「歯磨きのような感覚」。経営者にありがちな体型崩れを防ぎ、健康と集中力を維持する基盤になっている。
インタビューの締めくくりに、藤原氏は若手経営者へのメッセージを残した。
> 利他の精神で語れるのは、自分が満たされたから。まずは自分と家族の生活が成り立つ最低限の樽を早く満たすこと。その後はステークホルダーのために人生を使えば、結果的に社会から認められ、自己肯定感も高まる
そして最後にこう付け加えた。「最近は小粒の起業が多い。志を持って大きくしていこうぜ」──金なし・コネなしから日本を代表する企業を目指す経営者からの、率直なエールである。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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