創業期のベンチャーでも大型借入は実現できる。累計28億円のデッドファイナンスを実行したベースコネクト出身の会計士・中辻氏が、銀行融資のリアルと信頼構築の極意を語る。
スタートアップにとって資金調達は事業成長の生命線です。エクイティ(株式)による調達に注目が集まりがちですが、実は銀行借入(デッドファイナンス)でも数十億円規模の調達が可能です。本記事では、ベースコネクトでCFO相当の役割を担い、累計約28億円の借入を実行した会計士・中辻氏に、銀行融資の実態と成功のポイントを伺いました。
中辻氏は日米両国の公認会計士資格を保有する財務のスペシャリストです。キャリアのスタートはBig4監査法人で、会計監査やM&A業務に従事。1年間の留学を経て事業会社へ転職し、海外M&Aやイギリス赴任を経験、CFO相当の業務に携わりました。帰国後はスタートアップにジョインしIPO準備全般を担当。2024年4月に独立し、スタートアップ全般と海外案件の支援を行う会社を設立しています。
直近では、所属していたベースコネクトが約53億円の資金調達(累計借入880億円規模を含むデッド・エクイティ両建て)を実現。その経験から得られた銀行融資のリアルを語っていただきました。
中辻氏が強調するのは、デッドファイナンスは短期決戦ではなく長期の活動であるという点です。
エクイティであれば業績がきちんと出ていればすぐ次の調達に繋げられます。一方、銀行融資は信頼を積み重ねながら段階的にレベルアップしていくものです。例えば創業融資で300万円借り、業績を出して次は1,000万円、さらに1億円へとステップを踏んでいく必要があります。
そのうえで重要になるのが「営業要素」です。高額な車を売るセールスマンが日々顧客にコンタクトを取り、自分自身と商品の魅力を伝え続けるように、経営者も金融機関の担当者と長期的に関係を構築する必要があるといいます。
ベースコネクトの53億円調達のうちデッドは約28億円。長期借入と短期借入を組み合わせた構成でしたが、これも「リリース直前に動いた」のではなく、社長が中辻氏のジョイン以前から金融機関との関係を築いてきた積み重ねの成果でした。
「エクイティは未来を見るが、銀行は過去しか見ない」という言説について、中辻氏は「半分当たっていて半分外れている」と評します。
確かに銀行は過去の決算を重視する傾向がありますが、近年は将来性も評価対象に含まれるようになってきました。スタートアップの多くは現状赤字ですが、将来的な収益性をきちんと説明できれば、いわゆる「黒字の改善性」を根拠に融資が引き出せるケースも増えているといいます。
中辻氏が挙げる、銀行融資審査における重要ポイントは次の4つです。
銀行の基本ロジックは「営業利益の中で返済できるか」です。スタートアップや赤字企業にとって最大の論点はここにあります。投資フェーズで赤字になっている場合でも、「広告費・人件費を投じているからこそ赤字であり、本来の収益性はこうである」と説明できる必要があります。
営業利益の範囲内で借入金を返済できる計画になっているかが見られます。
「1億円貸してください」と伝えるだけでは不十分で、その1億円を何に使うのかを具体的に説明できなければなりません。
銀行が最も避けたいのは貸し倒れです。1億円を金利約1〜2%で貸した場合、年間の利息収入は200万円程度。1億円が回収不能になれば50年分の利益が消える計算です。だからこそ財務健全性は欠かせません。
指標としては自己資本比率やネットキャッシュ(借入金を全て返済した場合に手元に残るキャッシュ)が重視されます。中辻氏の肌感覚としては、自己資本比率5割程度あれば「すごく嬉しい」水準ですが、業種や企業規模、銀行ごとに評価は異なるため一概には言えないとのことです。
また、BSも大事ですが、返済能力を直接示すPL(損益計算書)の方が銀行借入では重要だと中辻氏は捉えています。
中辻氏が強調するもう一つのポイントは、銀行融資が極めて属人的だということです。
例えばあるA支店で、スタートアップに明るい支店長が3月の人事異動で別の方に変わった瞬間、「スタートアップとは何だ」というスタンスに変わり、関係性が冷え込んだ事例があったといいます。決済権限を持つ方の認識が全てを左右するため、4月や10月の異動シーズン前にクロージング間近の案件は急いで進めるのが定石です。
また、目の前の担当者がファンになってくれることが出発点であり、担当者が稟議書を書いてくれる構造である以上、関係構築は避けて通れません。
「銀行借入は紹介の方が良い」という通説についても、中辻氏は「絶対に紹介の方が良い」と断言します。
できる限り役職の高い方、理想は支店長クラスにアクセスできるルートを確保すべきです。一担当者から始めると、信頼を積み上げてレベルを上げるのに時間がかかります。日本政策金融公庫であっても紹介ルートが望ましく、紹介してくれた方は自身のクレジット(信用)を消費して取り次いでくれているため、安心感のある関係が構築しやすいといいます。
対談の最後に、相談者の決算書を中辻氏が即興でレビューする一幕がありました。
キャッシュが手厚く純利益率も約10%と良好。資金使途を明確に説明できれば、1〜2億円規模の借入は十分可能との見立てです。具体的には次のようなアプローチが提案されました。
- まず日本政策金融公庫が最有力。国民生活事業ではマックス5,000万〜6,000万円程度になりやすいが、中小企業事業に上がるとミニマム1億円から検討対象になる
- 信用保証協会付き融資も活用可能。プロパー融資(保証なしの直接融資)に進む際は、保証協会経由の実績があった方が通りやすい
- 人材会社のように人件費が主なコストの場合、人材を「無形固定資産」的なアセットとして説明する
- 前受金がある場合は「運転資本に対する融資」として説明できる。買掛金・在庫と同じく前受金も運転資本の構成要素であり、この前受金の一部を長期借入に置き換えることで、自社事業を伸ばすリソースを確保できるというストーリーを提示できる
相談者は採用強化と、売上の約7割を占める1社依存からの脱却(顧客分散)を目的に資金を必要としており、こうした目的整理ができていれば借入の蓋然性は高いと評価されました。
スタートアップの銀行融資は、単発のイベントではなく長期にわたる信頼構築の活動です。月次での財務報告、定性的な事業進捗の共有、エクイティ調達の進捗報告など、地道なコミュニケーションを2〜3年単位で積み上げることで、同じ決算書でも審査通過率は大きく変わります。
また、黒字の改善性・返済可能性・資金使途・財務健全性という4つのポイントを押さえ、紹介経由で役職の高い担当者にアクセスし、人事異動のタイミングも考慮する。これらの「型」を理解して動けば、創業間もないベンチャーでも数十億円規模のデッドファイナンスは十分に射程に入ります。
次回はエクイティファイナンスについてお話を伺います。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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