シリコンバレーでAI開発を手がけるパロアルトインサイトCEO・石角友愛氏が、アメリカの最新AI事情と日本企業が経営DXで陥りがちな落とし穴を解説。中小企業こそチャンスである理由と、AI時代に求められる「問いを立てる力」について語る。
シリコンバレーでは、起業家同士の会話の99%がAIに関するものだと言われるほど、AIは当たり前の存在になりました。日本企業がこの潮流をどう捉え、経営にどう活かしていけばいいのか。アメリカ・パロアルトを拠点にAI開発とDX推進を手がけるパロアルトインサイトCEOの石角友愛氏に、M&A CAMPのしゅんが話を伺いました。
石角氏はハーバードビジネススクール卒業後、Google本社でAI関連プロジェクトに携わり、シリコンバレーでAIスタートアップ2社を立ち上げ。2017年にパロアルトインサイトを起業し、現在はシリコンバレーとシアトルに技術拠点を持ちながら、日本企業に対してAI開発やDX推進の提言を行っています。
「以前は『会えばAIの話ばかり』という時代でしたが、それも2年弱前の話。今はAIを使うことが当たり前になり、会話の中身もより具体的で細分化されてきています」と石角氏。プロダクトがまだ存在しないAIスタートアップが、企業価値だけで数百億円のバリュエーションを付けられるなど、現地は「AIの一番流行っている時期」を迎えているといいます。
また、かつては「AIがインフラになる」と聞いてもピンと来ない人が多かったところ、生成AIの登場によって「インフラとはこういうことか」と感覚的に理解できる人が増えてきたと指摘します。
ChatGPTの登場で、アプリ開発のハードルは劇的に下がりました。「シリコンバレーでは、これまで80人のエンジニアでないと作れなかったものが、8人のエンジニアでできるようになると言われています」と石角氏。
そのうえで、これからのAIスタートアップの競争優位は「業界の知識とネットワーク」にあると強調します。OpenAIが投資する先を見ても、業界特化型のAIスタートアップが多いといいます。
例えばChatGPTを活用して法律事務所専用の課題解決SaaSを提供する会社や、医療業界に特化した会社など、業界特有の風習や全体像を把握している人がAIを活用すると、極めて大きな相乗効果が生まれるのです。
日本ではスタートアップの資金調達が難しくなっていると言われますが、アメリカではどうなのか。
石角氏によると、ベンチャーキャピタルの資金は、しっかりしたファウンダーチームを持つAIスタートアップには集まりやすい状況。「資金調達できるうちにやっておこう」という動きが目立ちます。一方で、IPO以外のEXITの選択肢も増えており、出口戦略は多様化しているといいます。
しゅんが「日本のスタートアップや中小企業は、本当の意味でAIを活用できていない感覚がある」と問いかけると、石角氏もこの指摘に同意します。
IPA(情報処理推進機構)が発表したDX白書には「進むデジタル 進まないトランスフォーメーション」というタイトルが付けられました。デジタル化は進んでいるものの、業務改善や社員のマインドセット、ビジネスモデルの変革といった「X(変革)」の部分が追いついていないというのです。
背景にあるのは、コストパフォーマンスを短期で求める経営者の存在です。「1年で利益が出ないとダメ、というように短期的な回収を期待する方が多い。AIは使ってすぐに売上が上がるものではなく、既存の業務や基幹システムにどう統合するかが大事です。期待値に対する時間軸を正しく持つことが、経営者には求められます」と石角氏は語ります。
社員10名規模の小さな会社こそ、AI活用の絶好のチャンスだと石角氏は断言します。
「人がいなくなったとき、すぐに代わりを雇うのではなく、これまで人がやっていたことをChatGPTなどでどこまで半自動化できるかを考える機会にしてほしい。小さい会社なら、考えて実装するのがその日にできてしまう」
ビデオ編集や定型業務など、ChatGPTを活用できる領域は広く、プロセスをリデザインするきっかけとして使うべきだと提言しています。
石角氏は教育とChatGPTについても寄稿を続けていますが、最近強く語られているのが「好奇心」と「探究心」の重要性です。
「好奇心や探究心を強く持っている人は、0→1の問いを立てる能力があります。ChatGPTに何を聞くか、その『何』を考えられる人が注目されています」
では、好奇心はどう育むのか。鍵となるのは「答えを簡単に見せない環境」だといいます。教育現場で使われるChatGPTは、答えを簡単に教えないように仕様が変わっており、「どうしてだと思う?」と問いを問いで返してくる「よくできた家庭教師」のような振る舞いをするとのこと。これにより使う側の思考力が育まれていくのです。
石角氏は数年前から、東京の芝国際学園で中高生向けに「AIと私」というAI教材を開発・提供しています。
「主体性を持ってAIを、特に10代のうちに学ぶことは、今後理系・文系関係なく課題解決のために、もっと言えば自分の生活をより良くするために重要になります。AIは怖いもの、仕事を奪うものではなく、便利なツールだと思ってもらうことが大切です」
経営者向けのDX推進・AI開発と並行して、教育事業でも「主体性を育む」「問いを立てる能力を育む」AI教材の開発に注力していくと語ります。
問いを立てる力、好奇心、自分は何をしたいのか、企業としてどこに行きたいのか──こうした認知能力は、筋トレと同じで「使わないと衰え、鍛えるほど強くなる」と石角氏は締めくくります。
アメリカと日本ではAI活用のスピードと姿勢に差があるものの、小さな組織ほど変革の余地は大きい。経営者自身が問いを立て続け、時間軸を持って取り組むことが、AI時代の経営DXを成功に導く鍵になりそうです。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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