ユーザーベースによるNewsPicksのPEファンドへの売却は本当に「失敗」なのか。M&A専門家の富岡氏が、メディア事業の収益構造、人材×メディアでIPOが多い理由、そしてNewsPicks非公開化の戦略的意義を解説する。
5期目を終えるYouTube運営会社の経営者として、現場で実感していることがある。「メディア単体の会社は儲かりにくい」という構造的な課題、そして上場後も時価総額や企業価値が伸び続けるメディア企業はほとんど存在しないという感覚だ。
2024年にはユーザーベースが運営するNewsPicksがPEファンドに買収された件もあり、売上が伸びていても時価総額が上がらない、自社配信などコンテンツとしての合理性と経済的合理性が一致しないといった現象を目にすることが増えている。
本稿では、こうしたメディア事業のあり方とビジネス構造について、M&A専門家の富岡氏に伺った内容を再構成してお届けする。
富岡氏はまず、「結果的にうまくいっていないケースが多いように見えるだけで、実態は少し違う」と切り出した。
そもそもメディアは取っつきやすい事業領域だという。組織づくりやビジネスモデルの精緻な設計が得意でなくても、スモールスタートで一定の規模やユーザー数を獲得できる、断片的に進めやすい構造がある。そのため、特に若手起業家がチャレンジする数が圧倒的に多い。母数が多い分、目に映る失敗例も多くなるという見立てだ。
富岡氏はメディアで成功するパターンは大きく2つだと指摘する。
1つ目は、特定のカテゴリーでトップを取り、シェアを獲得していく王道路線。SUUMOやホットペッパービューティーのようなモデルだ。
2つ目は、メディア内のマネタイズポイントとして人材を絡めるパターン。アフィリエイトでも、転職紹介の成功報酬でもよい。何らかの形で人材ビジネスを組み込むと収益が立ちやすく、人材系メディアを絡めたIPOや起業家は実際に多い。
優秀な経営者であれば、人材×メディアの組み合わせで売上10億円規模、利益で1〜2億円規模に到達するケースもある。そうすると上場が見えるフェーズに入る。
ただし、上場後の成長には別の仕掛けや組織力が必要になる。元々ビジネスモデルを精緻に練り込んでいたわけでも、組織化が得意だったわけでもない経営者の場合、上場前後で伸び悩むことになる。
「だからこそ、人材×メディアはIPO前後のタイミングの会社が多いように見える、というのが実態だと思います」と富岡氏は語る。
これは悪いことではなく、その先を見越して仕込んでおく、あるいはIPO手前で売却するという選択も合理的だという。「メディアだからダメ」という話ではない。フェーズによって必要な筋肉が変わってくる、ということだ。
話題はNewsPicksに移る。PEファンドによる買収から1年が経過した時点での見立てとして、富岡氏は次のように分析した。
PEファンドが買って成功するかどうかは、メディアかどうか以前に「スタートアップは基本的に難しい」という構造的な問題があるという。NewsPicksは上場企業だったとはいえ、ベンチャーの延長線上、メガベンチャー的な組織体だ。店舗型のように増やせばよいビジネスとは違い、クリエイティブや新しいアイデアでビジネスを転換させる発想が求められる。金融出身者が中心のPEファンドにとって、その領域は得意分野ではない。
ただし今回のポイントは、ファンドが事業を作るのではないという点だ。代表の梅田氏や佐々木氏など既存の経営陣は残っており、経営体制そのものは変わっていない。優秀な人材は、ファンド買収のずっと前から既に離脱が進んでいた可能性が高く、苦しんでいた背景もそこにある。
では何のための非公開化か。富岡氏が強調するのは、ストックオプションを発行できるようになる点だ。
上場企業もストックオプションを発行できないわけではないが、多様な株主の手前、特定の人材に毎年3%発行するといった大胆な施策はまず取れない。一方、いったん非公開化すれば、再上場までに最大20%程度の枠を発行することも可能になる。
優秀な経営人材を呼び込み、今後の事業を担ってもらうには、ミッション・ビジョンに加えて経済的なインセンティブが欠かせない。スタートアップ的なインセンティブ設計を再構築するという意味で、今回の非公開化には大きな意義があると富岡氏は見ている。
NewsPicksが伸び悩んだ要因は大きく2つあると富岡氏は分析する。
1つは、自社よりも規模の大きい会社を買収する海外M&Aで結果を出せなかったこと。もう1つは、NewsPicks自体の伸びが鈍化していたこと。動画時代への対応も十分とは言えず、もう一度ゼロから作り直すくらいの覚悟が必要なフェーズに入っていた。
しかし上場したままでは、しっかり売上・利益を出さなければならず、思い切った投資はできない。「上場したままだと無理だ」と判断したからこその非公開化であり、大幅な赤字を許容してでも将来の成長に賭ける選択だと言える。
コンテンツ系・クリエイティブ系の会社は上場すると窮屈になりがちだ。経営者の性格によっても向き不向きがある。
富岡氏はこう語る。「どんなに儲かっていても上場せず、非上場で好きなことだけやりたいという経営者もいる。それはそれで全然いい。一方、上場後のプレッシャーの中でもやりたいことをやるには、こうした手段(非公開化)が必要だという人もいる」
さらに突き抜けたケースとして、孫正義氏のように株主すらも自分のファンになっている経営者の例も挙げる。サイバーエージェントの藤田晋氏のように、株式比率が50%を切った後でも自分のやりたいように経営している例もある。ごく少数ではあるが、そうした道を目指す選択肢も存在する。
最後に、急成長中の動画メディア「PIVOT」についても話が及んだ。
富岡氏は「ただただ面白い」とした上で、「もちろん上場するだろうと思っている。今でもスモールIPOなら余裕でできる規模ではないか」と推測する。
動画、しかもYouTubeに全振りで資金調達を進めるという戦略は、これまであまり例がなかった珍しいモデルだ。ただし、PIVOTの佐々木紀彦社長はユーザーベース出身でもあり、誰よりも上場後の苦しみを近くで見てきた人物。だからこそ、上場後にしっかり伸ばしていくストーリーを描いた上で、第2・第3の矢を準備しているはずだという。
YouTube一本でのIPOということはなく、その先のオプションも見据えた戦略が組まれていると見るのが自然だろう。
今回の対話で見えてきたのは、メディアという事業領域そのものに本質的な問題があるわけではないということだ。むしろ、参入数が多いゆえに失敗例も目立ちやすく、IPO前後で必要な経営の「筋肉」が変わるという構造的な特性がある。
NewsPicksの非公開化も、世間的にはネガティブに受け止められがちだが、スタートアップ的なリセットによってもう一度伸ばすための仕込みと捉えれば、むしろ可能性のある一手だと言える。
メディア経営者にとっては、自社のフェーズと性格に合った「上場・非上場」の選択、そして必要に応じた事業構造の組み換えこそが、長期的な企業価値向上の鍵になるはずだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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