ベンチャー企業が銀行借入を行う意義とは。日本政策金融公庫の資本性劣後ローン3,000万円を含む合計1.1億円の調達を実体験から振り返り、メガバンクではなく自社規模に合った銀行と付き合うことの重要性、そして経営の規律を保つための借入の効用を語る。
株式での資金調達ではなく、銀行借入によって合計1.1億円を調達した経験から、創業初期や売上数億円規模の経営者に向けて学びを共有したい。具体的には、日本政策金融公庫から3,500万円(うち3,000万円が資本性劣後ローン、500万円が通常借入)、さわやか信用金庫から3,000万円、そして昨年までに借りた残高5,000万円を合わせた金額となる。
2年ほど前までは「大きな金額を借りるのが怖い」と感じていたが、実際にやってみると心境の変化と多くの学びがあった。「これは借りた方がいい」とシンプルに思えたので、その理由を共有したい。
まず最も伝えたいのが、日本政策金融公庫の資本性劣後ローンの優秀さだ。これは3,000万円や5,000万円といった金額を借り、5年後・7年後などに一括で返済する仕組みのローンである。
最大の特徴は、借入でありながら他行への融資申請時には「自己資本」として組み込まれる点だ。決算書上は借入金として計上されるが、他の銀行から見ると自己資本として評価される。これは株式調達と似た性質を持つ。
さらに金利も非常に低い。
- 黒字企業の通常金利:約2.6%(最大5%)
- 赤字企業:ほぼ無利子
- どちらも最初の3年間は金利0.5%程度
3,000万円の安心を年間15万円で買うようなイメージで、極めて安い。加えて「劣後債」扱いのため、万が一返済できなくなっても個人保証は発生しない。
窓口での話では、政策金融公庫としてもベンチャー企業に資本性劣後ローンを積極的に出していきたい方針があるという。一定規模の会社であれば、まずは相談してみる価値が大きい。
最初の借入2,000万円は、いわゆるメガバンクから受けた。ブランド力のある銀行から借りたいという気持ちは、ベンチャー経営者なら誰しも理解できるだろう。しかし、これは「ミスではないが、最適ではなかった」と感じている。
メガバンクのメインクライアントは売上20億円以上、特に50〜100億円規模の企業だ。そこに数億円規模のベンチャーが2,000万円を借りても、利息は年間数十万円。担当者の人件費を考えれば、経済合理性が合わない。結果として丁寧な対応にはなりにくい。これは銀行が悪いのではなく、ビジネスとして当然の構造である。
そこで現在は、自社の規模に合った銀行をメインに据える方針に切り替えた。
- メインバンク:きらぼし銀行(売上1〜10億円規模がメイン顧客層)
- サブ:さわやか信用金庫(売上数千万〜2億円規模がメイン顧客層)
自社の売上規模はちょうどこの両行のターゲットの間にあるため、両者と良好な関係を築くことを戦略にしている。会社のフェーズに応じて取引銀行を変えていくことは極めて重要だ。
また、しっかり取引しようと思えば2ヶ月に1回程度は銀行担当者と面談し、事業の進捗やコストの使い方を報告することになる。外部株主がいなくても、この定期的な対話が「ちゃんと経営しなきゃ」という規律を生む。これも借入の隠れたメリットだ。
現在運営している事業は、メディア事業とエージェント事業の2つに大きく分かれる。それぞれ目的別に口座を分け、エージェント事業の運転資金で借りた口座からはエージェント関連の人件費を支払う、という形にしている。
経理作業はやや複雑になるが、銀行側にとっては情報量が増え、振込手数料の収益にもつながる。結果として、銀行から取引先として真剣に見てもらえるメリットがある。
ストックオプション発行のために資産管理会社を作る際、一時的に法人から個人へ役員貸付を行ったことがある。しかしこれは今後の借入時にデメリットとなる。役員貸付があると、保証協会付き融資でも社長への連帯保証がほぼ確実につく。
決算書をクリーンに保ち、まっとうな経営をしていくことの重要性を改めて痛感した。
外部調達をせず自己資金のみで経営している会社にとっても、銀行借入は規律ある経営に向かうきっかけになる。むしろ、そうあるべきだと考える。
- 創業初期はまず日本政策金融公庫に相談する
- 資本性劣後ローンは自己資本に組み込めて個人保証も不要
- メガバンクではなく自社規模に合った銀行をメインに置く
- フェーズに応じて取引銀行を見直していく
- 役員貸付など決算書を汚す要素は避ける
円安や日本経済の停滞が語られるが、ことスタートアップ・ベンチャーの資金調達環境という意味では、日本は意外と起業しやすい国だと感じている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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