時価総額を急伸させているSHIFTのM&A戦略を題材に、M&A Bank運営の富岡氏が「高値掴みされる売却」のリスクと、買い手選びで本当に重視すべき視点を語る対談記事。
急成長を続けるSHIFT。直近5年で時価総額を大きく伸ばし、その成長ドライバーとしてM&A戦略がしばしば取り上げられます。しかし、本当にSHIFTのM&Aは「うまい」のか。そして、売り手の経営者から見たとき、SHIFTのような会社に売却することはどう評価できるのか。
M&A CAMPの「しゅ」が、YouTubeチャンネル「M&A Bank」を運営しコーポレートファイナンス領域でアドバイザリーを行う富岡氏に話を聞きました。本対談では、SHIFTの事例を入り口に、起業家がM&Aで陥りがちな落とし穴と、長期的に納得できる売却の条件が語られます。
SHIFTがM&Aを積極化させてからまだ2〜3年程度。富岡氏は、M&Aの成否は最低でも5年単位で見るべきだと前置きしつつ、「現時点では非常にうまくいっているように見える」と語ります。
そもそもSHIFTの時価総額がここまで伸びている最大の理由は、M&Aそのものよりも本業のオーガニック成長にあります。富岡氏は、「いろんなテクニックがあるように見えるが、結局は本丸の事業が売上も利益も順調に伸びていることに勝るものはない」と強調します。M&A戦略の評価も、この本業成長の延長線上で語られるべきだという指摘です。
SHIFTのビジネスモデルは、エンジニアを派遣する、または受託案件を作って納品するという、人を中心とした事業です。エンジニアの人数こそが売上の源泉となる、わかりやすい構造といえます。
一見すると「労働集約型」と言われがちなモデルですが、富岡氏はこのイメージを否定します。アクセンチュアのようなコンサル、メイカレントコンサルティング、さらにはM&A業界のM&A総研なども、労働集約と捉えられがちながら高収益で伸び続けている代表例です。
「人を増やせば伸びる」というモデルを確立するまでが大変であり、ひとたび確立できれば極めて強い構造になる――そう富岡氏は説明します。
SHIFTのM&Aは、サービスを買収するケースもあるものの、基本的には「人を抱えている会社」を買う方針だと富岡氏は分析します。年間数件単位で買収を行っているため、売り手にとって候補先として浮上しやすい存在です。
ただし、いわゆる「買収プレミアム」を上乗せしてくれるかというと、その可能性は低い、と富岡氏は率直に語ります。
それでも、SHIFTのような会社に売る経営者は少なくありません。理由は、適正価格で買ってもらい、その後に一緒に成長していける機会を得られるからです。
対価の受け取り方にも選択肢があります。現金や借入れベースの買収代金だけでなく、買い手の株式を保有する形にすれば、買い手側企業の業績向上が自身の資産価値の上昇にもつながります。さらに、一定の業績条件を達成した場合に追加対価を支払う「アーンアウト」と呼ばれる仕組みも、契約上組み込むことが可能です(SHIFTはあまり活用していないとされます)。
一方、富岡氏が強く警鐘を鳴らすのが、「高値で買ってくれる会社」の危うさです。高値掴みをしがちな企業は、M&Aに慣れていなかったり、買収後の運営をうまく考えていなかったりするケースが多く、結果的にPMI(統合プロセス)で躓きやすい傾向があります。
うまくいっているうちはあらゆることが許されますが、業績が悪化した瞬間に空気は一変します。「あの時の説明が違う」「契約のここが」と粗探しが始まり、買い手と売り手のコミュニケーションが破綻し、最悪の場合は売り主が辞めさせられる、訴訟に発展する、といった事態も起こり得るといいます。
「その瞬間だけ切り取って高値の案件を探しに行くのも悪くはないが、トータルで見るとちゃんとしたところに買ってもらうメリットは相当大きい」と富岡氏は語ります。
対談の終盤では、SHIFTがサイエンスの元社長など著名な経営者人材を相次いで採用している点にも話が及びました。
年収が一定水準を超えると、報酬だけでは動かない人材の比率が高まります。そうした人材を惹きつけるのは、「一緒に目指せる山の大きさ」を明確に示すことができる経営者の存在です。
ここで富岡氏は、興味深い指摘をします。M&Aを積極的に行う会社というのは、要するに「外から仲間を取り入れるのがうまい会社」である、ということです。外部から経営者を中途採用することと、M&Aで会社ごと買って代表に経営を続けてもらうことは、構造的にほとんど変わりません。
したがって、M&Aがうまい会社は、エグゼクティブ採用にも長けている可能性が高い。逆に、M&Aを採用の延長線上で捉えることで、これまで多くの企業が積み上げてきた採用ノウハウ――「何が重要で、何をやってはいけないのか」――の多くがM&Aにも応用できるはずだと、富岡氏は語ります。
SHIFTのM&A戦略は、本業のオーガニック成長を土台に、人材を抱える会社を取り込みながら拡大している点に特徴があります。売り手目線では、高値で売却することよりも、買収後に共に成長できる相手を選ぶことの重要性が浮き彫りになりました。M&Aを「外から仲間を迎え入れる行為」として採用と地続きで捉える視点は、これからM&Aを検討する経営者にとって示唆に富む考え方といえるでしょう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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