DMM.com会長の亀山敬司氏が語る、現場マネジメントの極意。「他者を変えることはできない」という前提に立った時、経営者は何をすべきか。期待値の調整、適材適所の配置、そして自分自身との向き合い方まで、長年の経験から導き出された人材マネジメント論を語る。
部下が同じ失敗を繰り返す。注意しても変わらない。信頼していたのに裏切られた——。経営者やマネージャーなら誰もが直面するこの悩みについて、DMM.com会長の亀山敬司氏は明快に語る。
「他者を変えられるかと言ったら、ちょっとは影響を与えるかもね、ぐらいの程度かな」
社員と出会うのが20代だとすれば、それまでに価値観はある程度固まっている。同じ言葉を投げかけても、吸収する人もいればしない人もいる。亀山氏自身、不正を起こした社員に対し「こいつも反省しているし、俺がちゃんと言っていけば変わるかな」と思って許したものの、また繰り返されたという経験を持つ。
「自分が変えられると思ったのが驕りかなと思ったのよ、その時ね」
亀山氏は20代の頃、タイに渡ったまま戻らなくなった同級生を連れ戻しに行った経験を語る。元々は学校の先生を目指す真面目な人物だった。亀山氏が露店の仕事を教えたことをきっかけに変わっていき、半年後には人間不信に陥っていた。
「目つきが変わって、もう俺のことも信頼できないような雰囲気になっていた」
かつて「日本人が海外で女の子を買うなんて絶対許せない」と語っていた友人が、タイのバンコクで「こいつら金だからね」と冷めた目で語るようになっていた。亀山氏は説得を試みたが、無力を感じた。
なぜ友人はそうなってしまったのか。亀山氏の分析はこうだ。
「彼には本当に真っ白だったんだと思うんだよ。免疫がついてない時に、露店みたいな変な世界に入っちゃったばっかりに」
亀山氏自身は、子供の頃から複雑な家庭の友人と喧嘩したり、裏切られたり、愛情を受けたりを繰り返してきたため、悪い世界に触れても影響を受けにくかったという。
「筋トレと一緒なんだよ。毎日ちょっとずつやっていたら筋肉がつくけど、やったことない人がいきなりバチっとやったらブチっと切れて肩が壊れたりするでしょう」
ブルーハーツの歌詞を引用しながら、「なるべく小さい幸せをいっぱい集めよう」と語る。逆にいきなり大きすぎる成功や苦難に直面すると、人は壊れやすい。ベンチャーで急成長を求められる環境や、急に大金を手にして人が変わってしまうケースも、この理屈で説明できるという。
では、人を変えられないとすれば、他者にどう向き合うべきか。亀山氏は「期待値の調整」について独自の理論を語る。
「9割ぐらい信じる感じかな。1割ぐらいはあるかもなって思っといた方がいい」
100%信じていると、裏切られた時に何も信じられなくなる。しかし90%なら、思い通りにいかなかった時も「10%あるしな」と次へ進める。
さらに亀山氏はこう続ける。
「本当のところ言うと、10人いたら1人だけ悪い人がいて9人がいい人ってわけじゃなくって、1人の中に9のいいところと1の悪いところがあるんだよ。それがたまたま出ることがあるっていうだけ」
自分自身を振り返っても「100万円なら盗まないけど、100億あったらもしかして盗むかな」と思う瞬間がある。誰にでもあり得ることだからこそ、人を完璧に信じすぎないことが、自分自身を壊さない知恵になる。
亀山氏は知人がアフリカへボランティアに行き、現地で荷物を盗まれて「もう人を信用できない」と帰ってきた話を例に挙げる。
「本来は、彼らに同情して奉仕して、ちょっと自分がいい気分になりたかったのもあるわけじゃない、本当はね」
勝手に期待して、勝手に失望する。これも「自分が人を変えられる」という驕りの裏返しだという。期待値を最初から調整しておけば、うまくいかなくても「そんなもんだよね」で済む。
人を変えられないとすれば、マネジメントとは何をすることなのか。亀山氏の答えは明快だ。
「結論で言うと、どこに誰を置くかっていうポジションが、マネジメントで一番大事」
朝が苦手だが技術力のある人間には、出社時間を自由にして成果物だけ求める。能力はあるがリーダーシップがない人間に無理にリーダーをやらせるのではなく、面倒見のいい別の人間をリーダーに据える——。
亀山氏自身も、面倒見の悪い社員を無理やりリーダーに育てようとした時期があった。しかし結果は逆効果だった。
「そいつが逆にストレスになって、『もうやめてください、言わないでください』ってなって。だったら一人部署にしてあげようとやった方が、そいつも部下もみんなにとって良かった」
変えられない前提でキャラをどこに置くかを考える。これこそがマネジメントの核心だという。
自分の思い通りに人を動かそうとする経営者について、亀山氏は厳しい指摘をする。
「自分の思い通りにいこうっていう奴は、自分が一番正しいと思ってるってことじゃない。迷いがないわけじゃない。ある意味、それで成長しないってことじゃない」
「みんな俺みたいになれ」と言うのは、「俺は完成系だ」と宣言しているに等しい。逆に、社長より下の立場であっても「いいことを言うな、取り入れよう」と思える人間こそ、いずれその社長を超えていく。
亀山氏は最後に、自分自身のポジショニングにも触れる。
「俺も年だからさ、今なるべく現場自体に権限を譲っていかないと。言いたい時もちょっと我慢したりとかね」
権力を持つ立場にいる以上、ほうっておいても権威になってしまう。重要な緊急時以外は介入を控え、若い世代に経験を積ませる。失敗もあれば、意外と大丈夫だったということもある。「自分が100%当たってると思っていない」からこその判断だ。
生まれながらの悪人はいないが、救いがたい悪人はいる。人は変えられないが、自分は変えられる。そして、それぞれの適所に人を配置することこそが、マネジメントの最大の仕事である——。亀山氏の現場叩き上げの哲学は、シンプルだが深い説得力を持っている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
