カレーハウスCoCo壱番屋の創業者・宗次徳二氏が、創業4号店オープン時に借りた100万円のうち20万円を寄付した実話をきっかけに、利他の心、信頼の積み重ね、そして「余裕ができたらやる」では一生やらない寄付の本質を語る。借入残高150億円超まで膨らんでも一度も「貸せない」と言われなかった、信頼の蓄積による経営観も明かす。
カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)の創業者・宗次徳二氏は、創業期から現在に至るまで一貫して寄付や社会貢献を続けてきた経営者として知られる。本記事では、宗次氏が語る「利他の心」の原点、そして信頼を積み重ねることで成り立ってきた経営の歩みを、対談の内容をもとに再構成してお届けする。
宗次氏が語る最初の本格的な寄付は、ココイチの創業期にさかのぼる。4号店をオープンした際、給料が70万円不足していたため、嫁さん(直美夫人)が地元の小さな信用金庫の窓口へ行き、100万円を借り入れた。
借りた100万円のうち、70万円は給料袋に入れて12月末に従業員へ渡した。残った30万円のうち、10万円は1号店の創業の地の社会福祉協議会へ、もう10万円は引っ越したばかりの新天地の社会福祉協議会へ寄付したという。
「100万円借りて、20万円を寄付。あと10万円で昭和55年を迎えようという年末でした」
手元に残ったのは、わずか10万円。それでも宗次氏にとっては、迷いのない選択だった。
借りたお金から寄付するという行為について、宗次氏はその動機を率直に語る。
「やっぱり健康でこんな商売をさせていただけるんだ、という思いです。恵まれない人もいっぱいいる中で、と」
当時、ココイチは3店舗を運営していた。月商は1店舗あたり5〜6万円ほど。4号店オープンに合わせ、夫婦で「10店舗、年商1億8000万円」を目標に掲げたが、当時はまだ「恥ずかしくて他人には言えない」規模感だったという。
それでも、寄付に対する迷いはなかった。「自然と」というより、学生時代からそういう気持ちは持っていたのだと振り返る。仏教でいう「自利利他」、商売の世界で語られる「三方よし」——そうした考え方が、創業期から行動の根底にあった。
対談の中で宗次氏が強く語ったのが、「余裕ができたら寄付したい」と話す経営者の多くが、実際には行動しないという現実だ。
「『余裕ができたら私もやりたいと思っています』とは言いますけど、ほとんどやりません。本当に見事に、なんでというくらいやらないんです」
その理由について宗次氏は、「自分のために使いたい気持ち」「会社の経営がまだ思うようにいっていない」「余裕がない」など、さまざまな事情を挙げる。
税金についても同じことが言えるという。「税金を払いたくない」と話す中小企業の経営者は多いが、宗次氏自身は「少しでも多く払いたいくらい」だと語る。赤字経営だけは早く脱却してほしい——そう訴える背景には、社員が報われないこと、そして地域や人のために使われる原資が減ってしまうことへの危機感がある。
宗次氏の経営観を象徴するもう一つのエピソードが、銀行との関係性だ。
1999年9月、ココイチの借入残高はピークの154億〜155億円に達していた。前年に58億円、その前年に28億円、さらにセントラルキッチン2基の建設で80億〜90億円——積み上がっていった借入は、すべて事業の成長と将来性に対する信頼の裏付けだった。
「銀行さんからも、一度も『貸せません』と言われたことがないんです」
唯一、最初に窓口へ行った500万円の借入だけは少し時間がかかった。喫茶店を始めるための資金で、開業に700万円かかるうち500万円を借りようとしたとき、「ちょっとおいそれとは貸していただけなかった」という。
しかし、1年後の2号店出店時には1300万円ほどをすんなり貸してもらえた。以降は嫁さんが交渉の窓口となり、150億円近くまで一貫して融資を受け続けた。
「将来性も含めて貸していただきました」
上場企業だから貸してもらえたのではない。創業期から積み重ねてきた信頼の蓄積こそが、その後の事業拡大を支えた。
宗次氏は寄付について「使い切る」という言葉を使う。100万円のうち約91%以上を寄付に充てるという原則のもと、足長育英会など複数の団体への寄付を、ほぼ匿名で続けてきた。
「ああしたいから、そうさせていただく。褒めてほしいとかそういう思いはありません」
その姿勢は、利益目標の立て方にも通じる。「横ばいで、まあしょうがない」と納得するのではなく、「300万円の利益が出たら、来年は2桁伸ばして330万円にしよう」と毎年積み上げていく。15年、20年と継続すれば、結果的に大きな金額になっていくという考え方だ。
「利他の心も、利益も、今すぐ今からできることだと思いました」と聞き手は応じる。借りた100万円のうち20万円を寄付するエピソードを聞けば、誰でも「自分にもできるかもしれない」と感じられる——それが宗次氏の語りの説得力だ。
対談の終盤、聞き手は宗次氏に人生の後悔について尋ねた。
「後悔がないわけじゃないです。だらしない結果を招いたこととか、バカだったなと思うことはあります。ただ、誰かに迷惑をかけるようなことではないですけれども」
今後の目標について問われると、宗次氏はこう答える。
「目標ですか? いや、もう去年の延長で今年も行ければいいです」
朝3時45分には仕事に着き、休みは基本1日もいらない。今の生活が楽しくて満足している、という。心臓血管・高血圧・糖尿などの薬は処方薬9種類を服用しているが、薬が進歩しているおかげで日常生活にはまったく支障を感じない。15kgの掃除道具を持って街を清掃する朝の活動も、変わらず続けている。
2002年5月31日に経営者を退いて以降は、奥様と二人三脚で過ごす時間が増えた。経営者時代は飲み屋の領収書が一枚もなく、スナックにも個人で行ったことがなかったというが、引退後に奥様に連れられて初めてスナックやクラブを経験した。今では家でカンビールを飲む時間が「大好き」になったと笑う。
名古屋の拠点を中心に、講演や来客対応をしながら、花の世話と街の清掃を楽しむ日々。10時半頃から訪れる人々を迎えることが、自身の元気の源になっているという。
宗次氏の語りから浮かび上がるのは、特別な才能や恵まれた環境ではなく、「健康で商売をさせていただけることへの感謝」を起点にした、ごく地に足のついた行動原理だ。
借りたお金からでも寄付する。利益は毎年少しずつ積み上げる。銀行や取引先との信頼は、目の前の一件一件を誠実に積み重ねていく。そうやって何十年と続けてきた結果が、ココイチという企業の規模であり、宗次氏個人の社会貢献の総額でもある。
「余裕ができたらやる」では永遠にやらない——この言葉は、寄付に限らず、経営判断のあらゆる場面に響く重みを持っている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。


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